[特別権力関係論]
■特別の法律関係における人権
+■特別権力関係理論(19世紀のドイツ公法理論に起源)
  (1)意義、同理論の問題点 
《特別権力関係理論の内容》
(I) 法治主義の排除 公権力は法律の根拠なくして、特別権力関係に属する私人を包括的に支配可能。
(II) 人権制限 公権力は特別権力関係に属する私人の人権を法律の根拠なくして制限可能。
(III) 司法審査の排除 特別権力関係内部における公権力の行使は司法審査に服さない。

  (2)修正された特別権力関係論
(A) 私人の同意に基づく場合には法律の根拠なく制限可能とする説。
(B) 包括的な法律の授権があれば、その範囲内で個別の法律がなくとも一般的な人権も制約可能とする説。

+■公務員の人権
  (1)人権制限の根拠
特別権力関係説 日本国憲法の下では認めることが出来ない。
全体奉仕者説 判例(最判昭49.11.6「猿払事件」)。
憲法15条2項が公務員を全体の奉仕者として規定していることを根拠として、合理的で必要最小限度である限り制限可能とする。
職務性質説 公務員は、国民全体の利益の保障という内在的制約を持つ。
芦部説 憲法が15条、73条4号で公務員関係という特別な法関係の存在とその自律性を憲法的秩序の構成要素として認めていることを根拠として制約が認められるとする説。

  (2)人権制限の合憲性判定基準
全体奉仕者説 (a)禁止の目的、(b)目的と禁止される政治的行為との関連性、(c)禁止により得られる利益と失われる利益との均衡によって判断(「猿払事件判決」)。
職務性質説 制約は内在的なものに留まる。
芦部説 LRAの基準によるべき。LRAの基準:立法目的を達成するため規制の程度のより少ない手段が存在するかを具体的実質的に審査し、そのようなより制限的でない手段がありうると解される場合は、当該規制立法を違憲とする基準。

  (3)政治活動の自由(猿払事件)
  (4)労働基本権(全逓東京中郵事件・都教組事件・全農林警職法事件) 
《全農林警職法事件の理由》
(I) 公務員の勤務条件は国会の制定した法律・予算によって定められるから[財政民主主義]政府に対する争議行為は的はずれであること。
(II) 公務員の争議行為には私企業の場合とは異なり市場抑制力がないこと。
(III) 人事院をはじめ制度上整備された代償措置が講じられていること。

+■在監者の人権
  (1)人権制限の根拠:公務員の場合と同様に、「特別権力関係修正説」と「憲法自律関係説」の2つの考え方がある。  
  (2)合憲性審査基準(既決囚の場合、未決囚の場合) ※在監目的の差
明白かつ現在の危険説 この説によると、在監目的を達成することが出来ないと批判される。
「相当の具体的蓋然性」説 [最判昭58.6.22、「よど号」記事抹消事件判決]
監獄内における規律・秩序が放置できない程度に害される相当の具体的蓋然性が予見される場合に限り制限することが許されるとする説。
LRA基準説 在監目的を達成するため規制の程度のより少ない手段が存在するかを具体的実質的に審査し、そのようなより制限的でない手段がありうると解される場合は制限は許されないとする説。

  (3)問題となった事件 閲読の自由(よど号ハイジャック新聞抹消事件)、喫煙の自由