[二重の基準]
 「公共の福祉というのは人権制約の原理ということができるけど、ちょっと、それだけでは曖昧模糊としているわ」
 「とても、そのままの形では人権制約の根拠として用いることは出来ないね。なんと言っても、人権というのは重要だからね。そういう曖昧なものの恣意的な制約を安易に認めるというようなことがあってはいけない」
 「そこで、公共の福祉を具体的な合憲性判定基準とする必要性が出てくることになるわ。」
 「その必要性に応えるのがいわゆる二重の理論というものだね」
 「そうね。二重の理論というのは、精神的自由権に関わる制約については経済的自由権よりも厳格な基準で判断しましょう、という理論ね」
 「まさに、二重なんだよね。
 そもそも、精神的自由権あっての民主主義政治体制の運営といえる。だから、その精神的自由権が一旦侵されるというような事態に陥れば、民主政治そのものが成立し得ないわけだから、精神的自由権を民主政の過程で回復するということは不可能になってしまう」
 「一方の経済的自由権の制約については、そのような立法には専門的あるいは技術的な判断能力が必要とされるわ。でも、裁判所にはそういうことを判断するのに十分な資料も能力も持ち合わせていない。
 こういうわけで、二重の理論が主張されるわけね」