[特別な法律関係における人権制約]
 「公務員だとか、刑務所の中の人とか、そういう人達は国家権力と特別な法律関係に立っていると考えられるわ。そうすると、人権の制約に関しても、それ以外の一般の人とは異なる、ある種、特別な制約に服すると考えられるんじゃないかしら」
 「公務員の場合についていうと、そもそも公務員の職務というのは、国民の幸福などを守ることを目的するものだからね。確かに特殊なものとは言える。でも、特殊だから特殊なものは一緒に括ってしまって制約というのはね、ちょっと」
 「かつては、いわゆる特別権力関係ということで一括りにして考えていたわけよね。
 つまり、法律の規定や本人の同意によって、公権力と私人との間に成立する関係を特別権力関係として定義して、その上で、(1)公権力は法律の根拠なくして包括的にその私人を支配できるし、(2)法律の根拠がなくてもその人達の人権を制約するということが可能で、しかも(3)特別権力関係の中におけりう公権力の行為は司法審査に服しないとされたわ」
 「それは、現在の日本国憲法の下では認められないよ。
 如何なる公権力の行使も法によって拘束されるという法の支配に反するからね。
 それだけじゃないよ。その特別権力関係論っていうのは、さっきもいったように、公務員も在監者もいっしょくたに考えるわけでしょ、性質が違う法律関係を一括して捉えていること自体が問題だね」
 「妥当性を欠くわね。
ということは、特別な法律関係に立っている場合の人権制約については、それぞれの法律関係ごとに根拠や制約の程度を考えるのが妥当ということになるわね。
 そもそも、特別な関係に立っているから特別な制約を認めてもいいということではなくて、そのような関係に関して、憲法がわざわざ特段の規定を置いて、そのような法律関係を定めているからこそ制約が認められると言うべきね」