[債権者主義の根拠]

 双務契約における両債務の対価的牽連関係を考えるならば、債務は成立・履行だけではなく消滅においても牽連関係を持っていると解するべきと言える。こうした考え方が「債務者主義」。
 これに対して、債務の消滅に関して牽連関係を認めないというのが「債権者主義」。
 双務契約では「債務者主義」をとるというのが通常だとするならば、わざわざ「債権者主義」を採用する場合には、何らかの特別な理由、根拠が必要になってくるというもの。
 その理由の一つに挙げられているのが、ローマ法の法格言である「利益の存するところに損失も帰すべき」。
 売主は、売買契約によって拘束を受け目的物を売却してリスクを避けるなどということはしようがない。だから、買主がリスクを負担すべき。
 そもそも、買主は売買契約の成立によって売買の目的物の所有権を得るのだから、リスクも買主が負担すべき。
 買主は売買契約の成立によって、売買の目的物の支配可能性を持つことになるのだから、リスクもまた負担すべき。うんぬん。
 こうしたことが、特定物の売買契約において債権者主義が規定されていることの根拠となっている。
 民法の起草者も、こうした考え方に立脚して、特定物の売買で、その売買の目的物が売主(債務者)の責任に帰すことの出来ない事由によって滅失した場合には、その危険は買主(債権者)が負担すべきと定めた(民法534条1項)。