[不真性不作為犯による犯罪の成否]

現実に不作為をもって犯罪結果を生じさせることが可能
       ↓
  ∴ 不真正不作為犯も処罰の対象
       ↓
  形式的に結果と因果関係の認められる不作為⇒×全てを処罰
       ↓
  当該構成要件の予定するだけの実行行為の存在が必要
       ↓
  不作為犯の処罰範囲⇒具体的には作為義務の有無の判断基準
                    ┃
   不作為犯の実行行為性 ━━━━━→┃  
       ↑            ┃
   作為犯と同じく法益保護の観点   ┃
                    ↓
                実行行為性の有無
                =作為による実行行為と同価値の不作為の有無
                    ↓
                重要な法益に高度な危険の発生
                  +
                行為者に結果防止が可能
                  +
                行為者が結果発生を防止しなければならない理由
                ┃
                ┣━ 危険発生の原因を作出したこと
                ┃ 
                ┗━ 結果発生を防止すべき立場にあったこと

 現実問題として、不作為によっても犯罪結果を生じさせることは可能といえます。ですから、不真正不作為犯もまた処罰の対象として考える必要があります。
 しかし、不作為によっても犯罪結果を生じさせることができるからといっても、結果との間に因果関係を認めることが出来る不作為を形式的にすべて処罰の対象とするというのでは、あまりにも処罰範囲が拡大しすぎてしまい妥当ではありません。
 やはり、不作為犯においても当該構成要件の予定するだけの実行行為が存在していることが必要だといえます。
 具体的には、不真正不作為犯が成立するためには、処罰範囲を限定するために、作為義務が必要だと考えるべきでしょう。そこで、作為義務があるかどうかの判断基準というものが問題になるわけです。
 そもそも、不作為犯の実行行為性も作為犯同様に法益保護の観点から認められるということからすれば、法令、契約、事務管理、慣習または条理という形式的根拠があれば直ち作為義務が発生すると考えるのではなく、法的に当該構成要件に該当する作為による実行行為と同価値の不作為があるかどうかによって多元的に判断するのが妥当といえるでしょう。
 従って、作為義務が認められるためには、@すでに発生している危険性をコントロールしうる地位にあり、A行為者が結果発生の危険に重大な危険を与えたか、B結果発生の防止がどれだけ容易か、C他に結果防止可能な者がどれだけ存在したかといった法益関係的事情をもとにして各犯罪類型ごとに作為義務の限界を確定する必要があります。さらに、D法令や契約等に基づく行為者と被害者の関係やE他の関与者がいる場合は誰に帰責すべきなのかという事情も加えて判断する必要があるでしょう。