第七章 留置権

(留置権の内容)

第二百九十五条 他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。ただし、その債権が弁済期にないときは、この限りでない。
2 前項の規定は、占有が不法行為によって始まった場合には、適用しない。

不動産が二重売買され、第二売買の買主が先に所有権移転登記を経由したため、第一売買の買主が所有権を取得出来なかったことによって、売主に対して取得した履行不能による損害賠償請求権はその物に関して生じた債権に当たらない[最昭判43.11.21]。

「他人の物の売買における買主は、その所有権を移転すべき売主の債務の履行不能による損害賠償債権をもって、所有者の目的物返還請求に対し、留置権を主張することは許されないものと解するのが妥当」[最判昭51.6.17]

賃貸契約解除後に旧賃借人が賃借物件に有益費を支出した場合、295条2項の類推適用によって、旧賃借人は有益費償還請求権に基づく留置権を主張することはできない[最判昭46.7.16]。

賃借人は敷金返還請求権をもって家屋について留置権を行使することはできない[最判昭49.9.2]。

留置権は物権であり、留置権者は債務者だけではなく、目的物の譲受人など誰に対しても留置権を主張できる[最判昭47.11.6]。

(留置権の不可分性)

第二百九十六条 留置権者は、債権の全部の弁済を受けるまでは、留置物の全部についてその権利を行使することができる。

(留置権者による果実の収取)

第二百九十七条 留置権者は、留置物から生ずる果実を収取し、他の債権者に先立って、これを自己の債権の弁済に充当することができる。
2 前項の果実は、まず債権の利息に充当し、なお残余があるときは元本に充当しなければならない。

(留置権者による留置物の保管等)

第二百九十八条 留置権者は、善良な管理者の注意をもって、留置物を占有しなければならない。
2 留置権者は、債務者の承諾を得なければ、留置物を使用し、賃貸し、又は担保に供することができない。ただし、その物の保存に必要な使用をすることは、この限りでない。
3 留置権者が前二項の規定に違反したときは、債務者は、留置権の消滅を請求することができる。

(留置権者による費用の償還請求)

第二百九十九条 留置権者は、留置物について必要費を支出したときは、所有者にその償還をさせることができる。
2 留置権者は、留置物について有益費を支出したときは、これによる価格の増加が現存する場合に限り、所有者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができる。ただし、裁判所は、所有者の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。

(留置権の行使と債権の消滅時効)

第三百条 留置権の行使は、債権の消滅時効の進行を妨げない。

(担保の供与による留置権の消滅)

第三百一条 債務者は、相当の担保を供して、留置権の消滅を請求することができる。

(占有の喪失による留置権の消滅)

第三百二条 留置権は、留置権者が留置物の占有を失うことによって、消滅する。ただし、第二百九十八条第二項の規定により留置物を賃貸し、又は質権の目的としたときは、この限りでない。


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