日曜日, 2月 22, 2004
現代に繋がる遠い昔
「宇宙に関して考えるというのが宇宙論。
宇宙論というと物理学を基礎とした宇宙物理学、天体物理学とかだけど、哲学者も宇宙に関して考えているのね」
「宇宙はどうして出来たのかというところや宇宙を構成する物質の根本というのは何かというようなことは物理学的に要素を細分化、定式化して考える。
それは単に、数式を展開するだけなのかというと、そうじゃないでしょ。
数式にする前の定式化の段階では哲学的な方法による思索が必要になる。
極論すると全ての科学は哲学になるけど、中でも宇宙論という分野は一層哲学的と言って良いのだと思うよ
哲学者でも、宇宙物理学者のように数式を展開して考える必要はないけど、宇宙物理学者が達成した成果を十分に踏まえた上で宇宙に関して哲学的な考察をしていく。そうすることで、哲学が実学ではないなんていう常識は覆るんだよ。」
「そう言われてみると、今は当然のように使っている『原子』という言葉、これももとは哲学者が編み出した言葉よね」
「今では科学の用語だけどね。
最初に原子という概念を言ったのはデモクリトス(Democritus [460-370BC])だとされている。デモクリトス(Democritus)は、この原子という概念を宇宙論と結びつけて考えたという。彼に先立つ哲学者のパルメニデス(Parmenides)は地・水・火・風といった元素の組み合わせで世界が成り立っていると考えた。しかし、その一方で、『有らぬものはない』と考えた。有るという状態以外はない。つまり『無』という状態は存在しないとした。この『無』という状態こそが...」
「宇宙そのものね。
というか、宇宙という無限の空間を考える第一歩になる。それにしても、インド的な考え方では『無』こそが重要になりそうだけど。
『無』はないなんて考えるのがギリシア的なのかしら」
「そうじゃないよ。そこで、デモクリトス(Democritus)なんじゃないか。
彼は、パルメニデス(Parmenides)とは正反対の考え方をした。
『無』という空間があるからこそ物質が動くんだって、ね。しかも、エンペドクレス(Empedokles BC495-435)やアナクサゴラス(Anaxagoras BC.500-428)などは、そうした物質の動きの原理を人間を越えたものに求めた。だけど、デモクリトス(Democritus)は違った」
「原子というものが自分で自由に動き回ると考えたというわけね。
ここで、原子というのは『決して変化せず、消滅しない存在』としたのよね。現代では素粒子論があるから、原子が不変で消滅しない存在とすることは出来ないけどね。
これって、ギリシアの民主主義社会における個々人、まぁアテナイ市民などの市民階層のアナロジーだとも思えなくもない。
これが専制君主に諾々と従うような地域だったら、そこまで思い至ったかどうか」
「良い点を突いているね。それは、良い着想かもしれない。
しかしね、面白いことに、デモクリトス(Democritus)はね。こう考えたと言われている。原子の運動は、確実な法則によって成り立つ。これは、すなわち、世界のすべての現象は必然であるということに他ならない。また、人間もこの世界の一部であり原子から構成されている。よって、人間の行動にも確実な法則が成立する。従って、人間には自由意志はない。
ともかく、師匠であるレウキッポスに起源を持つとされる『原子』の考え方はデモクリトス(Democritus)に至って完成された。
でも、早過ぎたというべきかな。彼らが生きた時代には、この原子なるものの考え方を実証する、確かめるだけの技術が無かった。ただ思想のみが何歩も先を行ってしまったわけだね。アインシュタインが相対性理論を発表してから確認されるまで時間がかかったのとは比較にならないほど思想のほうが先を進んでしまった。
原子という考え方は近代になってドルトンが原子説を再び提唱したことで科学的な復活を遂げた。それまで、長い間葬り去られていたわけだね」
「デモクリトス(Democritus)は人間を超越した存在なるものを認めなかったわけだけど、その機械的世界観の出した結論は人間には自由意志はないか...
ちょっと納得がいかないなぁ。その点のことが根っこにあって、アリストテレスはデモクリトス(Democritus)の『原子』という考え方を否定したのかな。まぁ、それほど単純ではないのだろうけど」
原子と対をなす概念である宇宙。その宇宙に対する考え方をギリシア時代から現代のビッグ・バン理論に至るまでを解説した書籍として以下がある。
このように長い時間軸で人類の思考の変遷を辿る、しかも、現代物理学の手前で筆を置いて沈黙するということをしていないというところは、この著者ならではだろう。
宇宙像の変遷 講談社学術文庫
村上 陽一郎 (著)
宇宙論というと物理学を基礎とした宇宙物理学、天体物理学とかだけど、哲学者も宇宙に関して考えているのね」
「宇宙はどうして出来たのかというところや宇宙を構成する物質の根本というのは何かというようなことは物理学的に要素を細分化、定式化して考える。
それは単に、数式を展開するだけなのかというと、そうじゃないでしょ。
数式にする前の定式化の段階では哲学的な方法による思索が必要になる。
極論すると全ての科学は哲学になるけど、中でも宇宙論という分野は一層哲学的と言って良いのだと思うよ
哲学者でも、宇宙物理学者のように数式を展開して考える必要はないけど、宇宙物理学者が達成した成果を十分に踏まえた上で宇宙に関して哲学的な考察をしていく。そうすることで、哲学が実学ではないなんていう常識は覆るんだよ。」
「そう言われてみると、今は当然のように使っている『原子』という言葉、これももとは哲学者が編み出した言葉よね」
「今では科学の用語だけどね。
最初に原子という概念を言ったのはデモクリトス(Democritus [460-370BC])だとされている。デモクリトス(Democritus)は、この原子という概念を宇宙論と結びつけて考えたという。彼に先立つ哲学者のパルメニデス(Parmenides)は地・水・火・風といった元素の組み合わせで世界が成り立っていると考えた。しかし、その一方で、『有らぬものはない』と考えた。有るという状態以外はない。つまり『無』という状態は存在しないとした。この『無』という状態こそが...」
「宇宙そのものね。
というか、宇宙という無限の空間を考える第一歩になる。それにしても、インド的な考え方では『無』こそが重要になりそうだけど。
『無』はないなんて考えるのがギリシア的なのかしら」
「そうじゃないよ。そこで、デモクリトス(Democritus)なんじゃないか。
彼は、パルメニデス(Parmenides)とは正反対の考え方をした。
『無』という空間があるからこそ物質が動くんだって、ね。しかも、エンペドクレス(Empedokles BC495-435)やアナクサゴラス(Anaxagoras BC.500-428)などは、そうした物質の動きの原理を人間を越えたものに求めた。だけど、デモクリトス(Democritus)は違った」
「原子というものが自分で自由に動き回ると考えたというわけね。
ここで、原子というのは『決して変化せず、消滅しない存在』としたのよね。現代では素粒子論があるから、原子が不変で消滅しない存在とすることは出来ないけどね。
これって、ギリシアの民主主義社会における個々人、まぁアテナイ市民などの市民階層のアナロジーだとも思えなくもない。
これが専制君主に諾々と従うような地域だったら、そこまで思い至ったかどうか」
「良い点を突いているね。それは、良い着想かもしれない。
しかしね、面白いことに、デモクリトス(Democritus)はね。こう考えたと言われている。原子の運動は、確実な法則によって成り立つ。これは、すなわち、世界のすべての現象は必然であるということに他ならない。また、人間もこの世界の一部であり原子から構成されている。よって、人間の行動にも確実な法則が成立する。従って、人間には自由意志はない。
ともかく、師匠であるレウキッポスに起源を持つとされる『原子』の考え方はデモクリトス(Democritus)に至って完成された。
でも、早過ぎたというべきかな。彼らが生きた時代には、この原子なるものの考え方を実証する、確かめるだけの技術が無かった。ただ思想のみが何歩も先を行ってしまったわけだね。アインシュタインが相対性理論を発表してから確認されるまで時間がかかったのとは比較にならないほど思想のほうが先を進んでしまった。
原子という考え方は近代になってドルトンが原子説を再び提唱したことで科学的な復活を遂げた。それまで、長い間葬り去られていたわけだね」
「デモクリトス(Democritus)は人間を超越した存在なるものを認めなかったわけだけど、その機械的世界観の出した結論は人間には自由意志はないか...
ちょっと納得がいかないなぁ。その点のことが根っこにあって、アリストテレスはデモクリトス(Democritus)の『原子』という考え方を否定したのかな。まぁ、それほど単純ではないのだろうけど」
原子と対をなす概念である宇宙。その宇宙に対する考え方をギリシア時代から現代のビッグ・バン理論に至るまでを解説した書籍として以下がある。
このように長い時間軸で人類の思考の変遷を辿る、しかも、現代物理学の手前で筆を置いて沈黙するということをしていないというところは、この著者ならではだろう。
宇宙像の変遷 講談社学術文庫
村上 陽一郎 (著)