木曜日, 3月 18, 2004

そして目的論へ 

「火星に水があることが分かったり、太陽系で一番遠い天体が発見されたりと宇宙に関するニュースが相次いでいる。
次は地球外知的生命体の探査(SETI)に期待したいところ」
「知的な生命体が地球上の人類だけというのは寂しいからね。
太陽系で最も遠いセドナ(Sedna)は地球から130億キロでしょ。
そういう話を聞くと人間ってなんて小さいんだろうって思えてきちゃう」
「宇宙の広大さと比較して人間が何てちっぽけなんだろうという考えもあるけど、人間がいるからこそ宇宙があるんだっていう考え方もあるんだよ。
『人間原理』という考え方。1961年に、プリンストン大学のロバート・ディッケ(Robert Henry Dicke)が提唱したもの。
こうした考え方は目的論的ではある」
「『人間原理』ね。魅力的な考え方ではあるけど。
でもね、もともと自然を目的論的に観測するということは科学的な考え方とは相容れないじゃないかなぁ。だって、ほら、そもそも科学は神学者による目的論的な世界観から脱して客観的に分析しようという手段として発展したんだから」
「そうして科学は細分化することで発展していったわけだ。
そこでは全体を見て統合的に考えるということは、ともすると目的論的な世界観に繋がるということで慎重な態度が望まれた。
全体を考えるということが、即、目的論的な世界観に繋がるというわけではないのだけれども、過去の呪縛があるんだろうね。
それでも、やはり細かく見ていては駄目だということで色々な科学分野の蓄積された知識を動員して対象を分析しようという動きが盛んになっている」
「そうは言っても、そういう動きは自然科学の範囲に留まっているんじゃない?
社会科学と自然科学の知識の融合なんてことは..」
「それは日本のお家芸じゃないの?
今西自然学があるじゃない。
今西さん自身が『(今西)自然学というのは、今の学問のシステムにおさまらない』って言っている。京大のサル学というのはサルの社会を分析するというように自然科学なのか社会科学なのかバッサリと区分して分類するということは出来ないよね」
「あぁ、そうね。
今西さんと言えば、ダーウィンの適者生存の進化論に対して適者生存では進化は起きないんだって主張したわね。
良くビジネスマンが適者生存で弱い企業は敗れるだけなんて言ったりするけど、それではブレークスルーなんて起きないことになる。
それに対して、加茂川で4種類のヒラタカゲロウの棲み分けを発見したことを基にして棲み分けの理論を提唱したわね」
「生物の個体に注目するのではなくて、個々の生物の社会を考えるということ、さらに、生き残るのは最適者ではなくて偶然の作用が実は大きいのだと。
ここで、今西さんの主張とは少し離れるけど、その偶然というのは何かということに行き着いていってしまう。そうすると、目的論的な世界観に行ってしまうんだよなぁ」


cover

進化とはなにか 講談社学術文庫 1
今西 錦司 (著)

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