東京湾岸的過日録
おすすめ

かねやす 2007.03.22更新
都営地下鉄大江戸線の本郷三丁目駅の近くにある「かねやす」。「かねやす」というのは兼康裕悦という口中医師つまり現在でいうところの歯科医が乳香散という歯磨き粉を売る店を構えたのがここ。

「かねやす」は

『本郷も かねやす までは江戸のうち』

という川柳で知られた店だった。ちなみに、「かねやす」と平仮名なのは、別家の芝明神前の兼康との間で元祖争いが生じ、町奉行の裁定で本郷の兼康は平仮名で「かねやす」とすべきとしたことによる。

さて、「かねやす」が川柳に詠まれのは1730(享保15)年の大火の後。

大岡越前守忠相が防災上の理由から現在の本郷3丁目までの町屋を従来の茅葺から土蔵塗屋造、蛎殻葺にすることを命じた。その境目が「かねやす」で、「かねやす」は大きな店だったので目だった。

ちなみに、当時の「かねやす」の看板は赤穂浪士の堀部安兵衛が書いたと言われている。

石川島人足寄場 
相生橋から石川島公園を望む。
かつては、この辺りに人足寄場が置かれていた。但し、設置当初は石川大隅守屋敷裏と佃島との間の小島に設置され、佃人足寄場とも呼ばれた。写真の場所(佃2丁目)の付近は大隅守屋敷に当たるが、寛政4(1792)年に大隅守屋敷は御用地となり、この地も人足寄場の油絞場が置かれた。
 人足寄場は、江戸近郊にいた無宿人のうち捕縛されて入墨あるいは敲の刑になったものや吟味したものの無罪が確定したものを収容した施設。
 石川島の人足寄場は寛政2(1790)年に火附盗賊改方長谷川平蔵宣以が老中松平定信に建議して創設された。正式な名称は「加役人足寄場」といった。
 このような無宿人に対して授産をもって懲戒主義の追放刑に代えるという思想は、近代的自由刑の最初といわれるアムステルダムの懲役場に通じるものがあると考えられている。
 もっとも、無宿人対策という意味では、安永6(1777)年に勘定奉行石谷清昌の建議によって佐州水替人足の制が敷かれている(石谷清昌はかつて佐渡奉行を務めた)。これは無宿人を佐渡へと送るものだが、同じく安永9(1780)年には南町奉行所が「無宿養育所(深川茂森町)」を開いている(瀧川博士)。しかし、「無宿養育所」は早く天明6(1786)年には廃止されており、その意味でも機能していたのは「石川島人足寄場」だと言える。
 石川島人足寄場送りは文化2年以後の佐州水替人足と同じく保安処分であった。
 しかし、文政3(1820)年には、江戸払以上の罪を宣告されたもののうちから情状によって5年程度の人足寄場送りという、追放刑の換刑としての懲役場としての性格を持つようになる。この制度は一旦は天保9(1832)年に廃止されるものの、天保11(1834)年には旧に復した。
 収容者は寛政5(1793)年には132人、文化10(1832)年で132人、天保13(1842)年には430人、弘化2(1845)年では508人であった。
 この人足寄場は、松平定信が『宇下の人言』で言及しているとおり一定の成功を収めた。また、天保13(1842)年には老中水野越前守が追放刑の廃止を建議するという画期的なことがことが起こるが、評定所(和田倉御門内辰ノ口評定所)で結論が出ず、次善の策として浅草溜に非人寄場が設けられている。こうした積み重ねの結果を見て、幕府は追放刑に換えて自由刑を科す寄場の設置を江戸以外の天領と大名領に勧めるに至る。
 なお、石川島人足寄場は明治3(1870)年に廃止された。

[参考文献]
[1] 『日本近世行刑史稿』上、日本刑務協会(昭和18年)
[2] 『刑罰詳説』本刑編、佐久間長敬(徳川政刑史料前編第三冊、明治26年、近代犯罪科学全集第13巻「刑罪珍書集」I)
[3] 『刑罰の歴史-日本』、石井良助

[注]
[1] 佃島は向島と呼ばれる干潟だった。後に佃島の住民となる庄屋森孫右衛門をはじめとする摂津国西成郡佃村と大和田村の漁民達は最初、徳川家康の命により日本橋小網町安藤対馬守屋敷内に居住していた。しかし、後に向島を拝領し埋め立てを行って佃島とした。正保元(1644)年のことである。
[2] 石川島も向島同様、森島あるいは鎧島と呼ばれる干潟だった。それを、船手頭石川八左衛門が拝領し屋敷としたことで石川島と呼ばれるようになる。石川家(4000石旗本、相州上矢部)は寛政3(1792)年に石川島から永田馬場(現永田町)に居を移している。
江戸東京散歩 / EDO-TOKYO
プロフィール

美と歴史」のページを作成している  私、竹内です。
 生まれは北海道は旭川市
旭川といえば、井上 靖の故郷であり、小説「氷点」で知られる三浦綾子の故郷でもあり、文学の街。
 しかし、幼い頃に旭川を離れ、海峡を渡り東京へ。
そして、東京とは名ばかりのと形容される東京は北多摩地方の武蔵村山に。当時、武蔵村山は現在と同じように知名度は無かったものの、日産自動車の村山工場があり高度成長期の末期であったこともあって、それなりに賑わっていた。
 その村山で第一小学校、第七小学校を経て第四中学校へ。
 高校は多摩地方を離れ、以後、村山とは縁が無かったものの、最近、村山に戻る。

そして、現在は、葛西に居を構え汐留で荒波に揉まれる日々。

 

メールはこちらへ 

宇佐小路の美学
私のコレクションを中心に構成しています。絵画から民芸品、美術品、およそアートなら洋の東西を問わず。とは言っても、堅苦しいことは「難しい本」に任せて気ままに楽しんでください。まだまだ少ないですが、少しづつ増やしていっています。
「美と歴史」
過日録
過日録 美と歴史
武蔵村山的メモ/美と歴史/Aesthetics & Visual Culture

アーカイブ
07/30/2000 - 08/05/2000 |

2002年
04/07/2002 - 04/13/2002 | 05/05/2002 - 05/11/2002 | 05/19/2002 - 05/25/2002 | 05/26/2002 - 06/01/2002 | 06/02/2002 - 06/08/2002 | 06/09/2002 - 06/15/2002 | 06/16/2002 - 06/22/2002 | 08/18/2002 - 08/24/2002 | 09/15/2002 - 09/21/2002 | 09/22/2002 - 09/28/2002 | 09/29/2002 - 10/05/2002 | 11/10/2002 - 11/16/2002 | 12/01/2002 - 12/07/2002 | 12/15/2002 - 12/21/2002 |

2003年
01/12/2003 - 01/18/2003 | 01/19/2003 - 01/25/2003 | 01/26/2003 - 02/01/2003 | 03/02/2003 - 03/08/2003 | 03/09/2003 - 03/15/2003 | 03/16/2003 - 03/22/2003 | 03/23/2003 - 03/29/2003 | 03/30/2003 - 04/05/2003 | 07/27/2003 - 08/02/2003 | 10/05/2003 - 10/11/2003 | 11/16/2003 - 11/22/2003 | 11/23/2003 - 11/29/2003 | 11/30/2003 - 12/06/2003 | 12/28/2003 - 01/03/2004 |

2004年
01/04/2004 - 01/10/2004 | 01/11/2004 - 01/17/2004 | 01/18/2004 - 01/24/2004 | 01/25/2004 - 01/31/2004 | 02/01/2004 - 02/07/2004 | 02/08/2004 - 02/14/2004 | 02/15/2004 - 02/21/2004 | 02/22/2004 - 02/28/2004 | 02/29/2004 - 03/06/2004 | 03/07/2004 - 03/13/2004 | 03/14/2004 - 03/20/2004 | 03/21/2004 - 03/27/2004 | 03/28/2004 - 04/03/2004 | 04/04/2004 - 04/10/2004 | 04/11/2004 - 04/17/2004 | 04/18/2004 - 04/24/2004 | 04/25/2004 - 05/01/2004 | 05/02/2004 - 05/08/2004 | 05/09/2004 - 05/15/2004 | 05/16/2004 - 05/22/2004 | 05/23/2004 - 05/29/2004 | 05/30/2004 - 06/05/2004 | 06/06/2004 - 06/12/2004 | 06/13/2004 - 06/19/2004 | 06/20/2004 - 06/26/2004 | 06/27/2004 - 07/03/2004 | 07/04/2004 - 07/10/2004 | 07/11/2004 - 07/17/2004 | 07/18/2004 - 07/24/2004 | 07/25/2004 - 07/31/2004 | 08/01/2004 - 08/07/2004 | 08/08/2004 - 08/14/2004 | 08/15/2004 - 08/21/2004 | 08/22/2004 - 08/28/2004 | 08/29/2004 - 09/04/2004 | 09/05/2004 - 09/11/2004 | 09/12/2004 - 09/18/2004 | 09/19/2004 - 09/25/2004 | 09/26/2004 - 10/02/2004 | 10/03/2004 - 10/09/2004 | 10/10/2004 - 10/16/2004 | 10/17/2004 - 10/23/2004 | 10/31/2004 - 11/06/2004 | 11/07/2004 - 11/13/2004 | 11/14/2004 - 11/20/2004 | 11/21/2004 - 11/27/2004 | 12/05/2004 - 12/11/2004 | 12/12/2004 - 12/18/2004 | 12/19/2004 - 12/25/2004 | 12/26/2004 - 01/01/2005 |

2005年
01/02/2005 - 01/08/2005 | 01/09/2005 - 01/15/2005 | 01/16/2005 - 01/22/2005 | 01/23/2005 - 01/29/2005 | 01/30/2005 - 02/05/2005 | 02/06/2005 - 02/12/2005 | 02/13/2005 - 02/19/2005 | 02/20/2005 - 02/26/2005 | 02/27/2005 - 03/05/2005 | 03/06/2005 - 03/12/2005 | 03/13/2005 - 03/19/2005 | 03/20/2005 - 03/26/2005 | 03/27/2005 - 04/02/2005 | 04/03/2005 - 04/09/2005 | 04/10/2005 - 04/16/2005 | 04/17/2005 - 04/23/2005 | 04/24/2005 - 04/30/2005 | 05/01/2005 - 05/07/2005 | 05/08/2005 - 05/14/2005 | 05/15/2005 - 05/21/2005 | 05/29/2005 - 06/04/2005 | 06/05/2005 - 06/11/2005 | 06/12/2005 - 06/18/2005 | 07/03/2005 - 07/09/2005 | 07/10/2005 - 07/16/2005 | 10/09/2005 - 10/15/2005 | 10/16/2005 - 10/22/2005 | 10/23/2005 - 10/29/2005 | 11/13/2005 - 11/19/2005 | 11/20/2005 - 11/26/2005 |

2006年
01/08/2006 - 01/14/2006 | 01/15/2006 - 01/21/2006 | 01/22/2006 - 01/28/2006 | 01/29/2006 - 02/04/2006 | 02/05/2006 - 02/11/2006 | 02/12/2006 - 02/18/2006 | 02/26/2006 - 03/04/2006 | 03/12/2006 - 03/18/2006 | 03/19/2006 - 03/25/2006 | 04/02/2006 - 04/08/2006 | 04/23/2006 - 04/29/2006 | 04/30/2006 - 05/06/2006 | 07/09/2006 - 07/15/2006 | 08/13/2006 - 08/19/2006 | 09/10/2006 - 09/16/2006 | 09/17/2006 - 09/23/2006 | 09/24/2006 - 09/30/2006

最新

Powered by N.Takeuchi
Base Theme Designed by OCEAN-NET