[コースの定理]

 「コースの定理というのは、R. コース(Ronald H. Coase)が、『診療所が菓子製造所の騒音の影響を受けて、医師が診療を続行できない』という例題を用いて導いたものね。」

 「そうだね。所有権さえ明確に確定していれば、例え政府の介入がなくても市場の外部不経済の問題は解決されるというように説明される場合があるけど、厳密には、コースの定理(Coarse’s theorum)というのは取引費用(transaction cost)が0なら、権利義務の存否にかかわらず資源配分はパレート最適となるという定理だね。」

 「または、権利を当事者間にどのように割り当てようと、結果的には同一の資源配分が達成されるという定理っていうこともできるわね」

 「ただ、これはあくまでも前提条件である取引費用がない場合に成り立つんだということを意識して置かないといけないね。こういうことをいうと、なーんだ、それじゃぁ使えないじゃないかという人もいるけど、そうじゃぁないね」

 「現実って複雑に様々なものが絡まりあっているわよね、それを複雑なままに考えるというのは、よほどの天才でなければ無理ね。そこで、その複雑に絡み合った糸を丁寧に解して解決を図らなければならないわ。そのときにまさに役に立つのね」

 「模範的な回答を有難う。現実には、確かにこうした前提が成立しまい場合が多いといえるね。例えば、借地借家法は@正当の事由がある場合でなければ貸手から解約を求めることはできないという条項があったり、A高額の立退料が必要だったり、B判例として市場賃料よりも低い継続賃料が求められるね。こうしたものが、ずばり取引費用になっている。というわけで、この借地借家法の下では借家市場は上手く機能しないということがコースの定理から導けるわけだね」