[御成敗式目]
(1)
一 神社を修理し、祭祀を専らにすべき事
右、神は人の敬ひによつて威を増し、人は神の徳によつて運を添ふ。然ればすなはち恒例の祭祀陵夷を致さず、如在の礼奠怠慢せしむるなかれ。これによつて関東御分の国々ならびに庄園においては、地頭・神主らおのおのその趣を存じ、精誠を致すべきなり。兼てまた有封(ウフ)の社に至つては、代々の符に任せて、小破の時は且(カツガツ)修理を加へ、もし大破に及ばば子細を言上し、その左右(サウ)に随ひてその沙汰あるべし。
(2)
一 寺塔を修造し、仏事等を勤行すべき事
右、寺社異なるといへども、崇敬これ同じ。よつて修造の功、恒例の勤めよろしく先条に准ずべし。後勘を招くなかれ。ただし恣に寺用を貪り、その役を勤めざるの輩は、早くかの職(シキ)を改易(カイエキ)せしむべし。
(3)
一 諸国守護人奉行の事
右、右大将家の御時定め置かるる所は、大番催促・謀叛・殺害人(付たり。夜討・強盗・山賊・海賊)等の事なり。しかるに近年、代官を郡郷に分ち補し、公事(クジ)を庄保に充て課(オオ)せ、国司にあらずして国務を妨げ、地頭にあらずして地利を貪る。所行の企てはなはだもつて無道なり。そもそも重代の御家人たりといへども、当時の所帯なくば駈り催すにあたはず。兼てまた所々の下司(ゲス)庄官以下、その名を御家人に仮り、国司・領家の下知を対捍すと云々。しかるがごときの輩、守護役を勤むべきの由、たとひ望み申すといへども、一切催を加ふべからず。早く右大将家御時の例に任せて、大番役ならびに謀叛・殺害のほか、守護の沙汰を停止(チヨウジ)せしむべし。もしこの式目に背き、自余の事に相交はらば、或は国司・領家の訴訟により、或は地頭・土民の愁鬱によつて、非法の至り顕然たらば、所帯の職を改められ、穏便の輩を補すべきなり。また代官に至つては一人を定むべきなり。
(5)
一 諸国地頭、年貢所当を抑留せしむる事
右、年貢を抑留するの由、本所の訴訟あらば、すなはち結解(ケツゲ)を遂げ勘定を請くべし。犯用の条もし遁るるところなくば、員数に任せてこれを弁償すべし。ただし、少分においては早速沙汰を致すべし。過分に至つては三ケ年中に弁済すべきなり。なほこの旨に背き難渋せしめば、所職を改易せらるべきなり。
(6)
一 国司・領家の成敗は関東御口入(クニユウ)に及ばざる事
右、国衙・庄園・神社・仏寺領、本所の進止たり。沙汰出来においては、いまさら御口入に及ばず。もし申す旨ありといへども敢て叙用されず。 次に本所の挙状を帯びず越訴(オツソ)致す事、諸国庄公ならびに神社・仏寺は本所の挙状をもつて訴訟を経(フ)べきの処、その状を帯びずばすでに道理に背くか。自今以後、成敗に及ばず。
(12)
一 悪口の咎の事
右、闘殺の基、悪口より起る。その重きは流罪に処せられ、その軽きは召籠めらるべきなり。問註の時、悪口を吐かば、すなはち論所を敵人に付けらるべきなり。また論所の事その理(コトワリ)なくば他の所領を没収せらるべし。もし所帯なくば流罪に処せらるべきなり。
(18)
一 所領を女子に譲り与ふるの後、不和の儀あるによつてその親悔い還すや否やの事
右、男女の号異なるといへども、父母の恩これ同じ。ここに法家の倫(ヒト)申す旨ありといへども、女子はすなはち悔い返さざるの文を憑(タノ)みて、不孝の罪業を憚るべからず。父母また敵対の論に及ぶを察して、所領を女子に譲るべからざるか。親子義絶の起りなり。教令違犯(イボン)の基なり。女子もし向背(キヨウハイ)の儀あらば、父母よろしく進退の意に任すべし。これによつて、女子は譲状を全(マツト)うせんがために忠孝の節を竭(ツク)し、父母は撫育を施さんがために慈愛の思ひを均(ヒト)しうせんものか。
(23)
一 女人養子の事
右、法意の如くばこれを許さずといへども、大将家御時以来当世に至るまで、その子なきの女人ら所領を養子に譲り与ふる事、不易の法勝計すべからず。しかのみならず都鄙の例先蹤これ多し。評議の処もつとも信用に足るか。
(24)
一 夫の所領を譲り得たる後家、改嫁せしむる事
右、後家たるの輩、夫の所領を譲り得ば、すべからく他事を抛(ナゲウ)ちて亡夫の後世を訪ふべきの処、式目に背く事その咎なきにあらざるか。しかるにたちまち貞心を忘れ、改嫁せしめば、得るところの領地をもつて亡夫の子息に充て給ふべし。もしまた子息なくば別の御計らひあるべし。
(48)
一 売買所領の事
右、相伝の私領をもつて、要用の時沽却(コキヤク)せしむるは定法なり。しかるに或は勲功に募り、或は勤労によつて別の御恩に預かるの輩、ほしいままに売買せしむるの条、所行の旨その科なきにあらず。自今以後、慥(タシ)かに停止せらるべきなり。もし制符に背き沽却せしめば、売人といひ買人といひ、共にもつて罪科に処すべし。
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