湾岸戦争は新しい戦争の形を非常に分かりやすい形で示したといえる.
米国はベトナム戦争において,それまでの戦争方式が通用しないことを,大きな代償を払って学んだ.それ以降,米国は様々な形で軍の改革を実施していく.それはまた,敗戦の徹底的研究でもあった.湾岸戦争はこうした動きの延長線に位置付けられるのである.
しかし,それはまだほんの始まりに過ぎないことも,湾岸戦争以降気づかれ始めている.湾岸戦争は,いわゆる近代情報戦が主役を演じる時代の幕を切って落とす,21世紀的軍事革命[21c Military Revolution]の序盤といえる.
この21世紀的軍事革命が達成された暁に,どういった戦場が出現するのか未だ誰にも分かっていない.振り返れば,人類は過去幾度となくこうした軍事革命を達成してきている.そして,それはまた大量破壊大量殺戮への道程でもあった.この悲しい道程の始まりはいうまでもなく,いい意味でも悪い意味においてもナポレオンにある.

軍事革命としてのナポレオン革命が完了したのは,フランス人が大砲を標準化および改良し,軍隊の規模を大幅に拡張し,軍の隊形の編制と指揮とを大幅に改良することが出来たときである.これに引き続く軍事革命[RMA]である地上戦革命は鉄道や電信が発達,マスケット銃(銃腔に旋条のない歩兵銃,ライフル銃[rifle] の前身)や大砲を補完するためにライフル銃撃が導入されたことによって開始された.アメリカの南北戦争はこのような軍事技術の発達を利用して戦われた戦争である.こうした地上戦革命に対して,第2の海戦革命は19世紀末に起こる.このカノン砲や鋼船や蒸気力が主役を担うようになった海戦革命によって,それまでの海戦の様相が一変した.19世紀末には,潜水艦や魚雷も導入された.19世紀における2つの革命がもたらした,戦術や軍隊の編制や技術が頂点に達したのは,第一次世界大戦の初期の段階であると結論付けることができるだろう.この第一次世界大戦では地上において固着した塹壕戦が,海上では水中戦が戦われた.第一次世界大戦というとこの塹壕戦に象徴されるように膠着した状況が続いていた印象が強いが実際は決して戦線が膠着していたわけではない.

第一次世界大戦の終盤局面において,軍事技術と軍隊編制におけるこのような変化が起きたことによって,機械化と航空機と情報における革命が戦間期に準備されることになった.こうした一連の技術革命によって,第二次世界大戦においては,人類史上初の大規模な殺戮と破壊を伴う軍事上の革新がもたらされることになった.後に軍事革命[RMA]と呼ばれることになるこの軍事上の大きな進歩の中には,ドイツ軍による電撃戦,日米軍による航空母艦,アメリカ軍による水陸両戦,および英米軍による戦略爆撃が含まれている.注目すべきは,ドイツと日本という,この戦争に敗北することになる国家が軍事上の大きな進歩の道筋を付けていたという事実であろう.軍事大国であった英国もフランスも技術上の革新を軍隊の中に取り入れてはいる.しかし,そうした動きは軍事大国であったが故に,限定的な組織改編しかもたらさなかったのである.この事実は,唯一の例外であるアメリカを除き,軍事革命[RMA]は覇権国ではなく,キャッチアップする側の後進国において達成されるという現代の神話を産むことになる.

第二次世界大戦は,確かに戦争の様相はそれまでの戦争とは大いに異なったものであった.しかし,こうした表面にあらわれた現象の多くは実は第一次世界大戦の最中に準備されたものであった.第一次世界大戦では双方ともに様々な兵器を開発したが,必ずしもそれらが十分に本来の力を発揮することはなかった.これは,それ以上の殺戮が行われなかったという意味においては喜ばしいことであるとも言える.そうした,当時の技術の粋を集めて開発した兵器は第二次世界大戦において威力を思う存分発揮することになる.そして,第二次世界大戦においては,ドイツ陸軍や日本海軍を例に挙げるまでもなく,新しい軍事上の技術や兵器が軍組織の変更を伴って導入された.技術を利用する枠組みが用意され,その器のもとにおいて兵器が投入されたのである.技術の進歩とそれを活用できる組織の誕生は,第二次世界大戦を人類史上最大の戦禍をもたらす戦争にさせた要因であったといえる.