『律令と罪刑法定主義?』
「律令の中には、既に近代の罪刑法定主義にも通じるような規定があるんだよね。例えば、断獄律や養老断令なんかには、きちんと処罰するためには律令の条文に基づかなければいけないって書いてある。」
「そうね。どういう行為をすれば犯罪とみなされるのかっていう構成要件に関してもきちんとしている。だけど、律令が近代的な意味合いで、罪刑法定主義を採用していたというのは、言い過ぎよね。」
「その通り。ただ、犯罪に対する刑罰が定められているだけというだけで、近代法における人権保障の精神などは希薄と言わざるを得ないから意味合いが異なるね。表面上は罪刑法定主義のようにも見えるけどその実は成文主義とでもいうようなものかな。」
「そういうところでしょうね。そうはいっても、各条文の構成が現在の刑法典の構成に似ているという点は興味深いわ。」
「犯罪の手段だけではなく、身分関係とか、未遂犯規定とか、故意過失の概念とか。そういうものまで見られるからね。過失犯は故意犯よりも罪が軽いという発想は既にある。」
「現行刑法との関連性ということでいえば、刑法の旧第200条の『尊属殺』の規定などは律令の「八虐」の「悪逆」にその源を求めることができるわ。」
「その規定は、最大判昭和48年4月4日で憲法14条に違反し無効という判決を受けて削除されているけどね。確かに、かつての尊属殺の規定は律令の「八虐」の「悪逆」だろうね。」
「ちなみに、八虐っていうのは謀反、謀大逆、謀叛、大不敬という忠に違反するものと悪逆、不道、不孝、不義という孝を犯すものよね。この八虐を犯すと身分上の恩恵は受けられなかったし、恩赦なんてとてもとても。」
「この八虐は律令以前の十悪の流れを汲んでいるね。
謀反 | 国家の顛覆をはかること。現行刑法の内乱罪。 |
謀大逆 | 帝・帝の墓・内裏などをそこなうこと。 |
謀叛 | 亡命・降伏・開城など本国に背いて、他国に従うこと。 |
悪逆 | 人倫に背き、祖父母・父母などの肉親を傷つけたり、殺そうとしたりすること。 |
不道 | 罪のない一家の三人以上を殺すこと。 |
大不敬 | 大社を毀したり神宝を盗むなど、帝を敬わないこと。 |
不孝 | 祖父母・父母を訴え呪うこと。 |
不睦 | 家族に和し親しまないこと。 |
不義 | 師・長官などを弑すること。 |
内乱 | 家内において不倫行為をして畜生道に落ちること。 |
ここから不義と内乱を除くと太宝律令・養老律令の律で定められた八虐となるからね。」
|