[小樽旧家 01/05]
 権利能力のない社団Aがその財産である不動産をAの代表者の一人であるBの所有名義で登記していたところ、Bは、私利を図る意図の下にその不動産を第三者Cに売り渡し、移転登記をした。
 この場合におけるA・C間の法律関係について、BがAの代表者として売り渡した場合と自己の名前で売り渡した場合とに分けて論ぜよ。
 なお、Aの代表者について共同代表の定めはないものとする。
[司昭59-1]

 「権利能力なき社団というのは、実体が社団であるにもかかわらず、法人格を持っていない団体ね。こうした団体の財産は総有だっていうのが判例・多数説の考え方になるわ。」 『権利能力なき社団の意義と財産の帰属』
 「その権利能力なき社団の財産を登記する方法が問題になるね。社団と同じように取り扱うべきではあっても、あくまでも社団ではないから、登記は構成員全員かあるいは代表者の名義で行うべきというのが判例になっている。」 『権利能力なき社団の登記方法』
 「それでと、Bは勝手に権利能力のない社団の不動産を売ってしまっているわよね。まずは、Bが自己の名前で売り渡したっていう場合を考えましょう。
 登記名義はBになっているけど、不動産の登記には公信力はないから、このB名義の実体のない登記を信用して取引をなしたCは無権利者となって不動産の所有権を取得することは出来ないようにも思えるわ。」
 「それはCにとっては不合理だよね。そこで、B名義の登記という外観を信用したということで、94条2項の類推適用が出来ないかっていうことが問題となるわけだ。」
 「その場合には、権利能力なき社団Aに帰責性が必要だけど、Aは不動産をA名義では登記することが出来ないのだから帰責性はないようにもみえる。でも、Aが代表者としてBを選んだということに関しては帰責性はあるので、94条2項の類推適用は可能ね。つまりは、Cは所有権を取得できるということになるわ。」
 「次に、BがAの代表者として売り渡した場合について考えようか。
 まず、Bに不動産を売却する権限があるという場合。」
 「この場合は、権利能力のない社団Aは、CがBの売り渡しの意図を知っていたとか、あるいは過失があったという場合に、不動産売買の無効を主張できるわね(93条但書類推適用説)。」
 「Bに不動産を売却する権限がなかった場合には、無権代表になるから54条類推適用によって、Cが善意であれば保護されるね。」

 Aは、債権者からの差押えを免れるために、Bと通謀の上、売買を仮装して、その所有する建物及びその敷地(以下、これらを総称するときは「本件不動産」という。)の登記名義をBに移転するとともに、本件不動産を引渡した。
 その後、Aは、上の事情を知っているCとの間で、本件不動産について売買契約を締結し、代金の支払を受けたが、その直前に、Bが、Dに本件不動産を売却し、引渡していた。
 Dは、AB間の上記事情を知らず、かつ、知らないということについて過失がなかった。
 ところが、上記建物は、Cの買受け後に、第三者の放火により焼失してしまった。なお、その敷地についての登記名義はいまだBにある。
 以上の事案において、本件不動産をめぐるCD間の法律関係について論じた上、CがA及びBに対してどのような請求をすることができるか説明せよ。
[司平6-2]

 「まず、『第三者が通謀虚偽表示(94条2項)で保護されるためには登記が必要となるか』だけど、必要ないわね。」
 「それから、『94条2項により保護される第三者と真の権利者からの譲受人との関係』だね。これは、Aを起点として二重譲渡の関係になるから対抗問題を生じる。つまり、177条が適用されて、先に登記を備えたものが勝ちだ。」
 「それから、敷地に関してはCはAに対して売買に基づく『債権的登記請求権』として請求することが出来るわね。でも、第三者の放火によって焼失してしまった建物に関しては、Cは何かをAに請求できるのかしら?」
 「『危険負担』の問題になるよね。日本では原則として、債務者主義(536条1項)が採用されているけど、特定物が特定された後に関しては例外として債権者主義(534条1項)の立場を採っている。つまりは、焼けて無くなってしまった建物に関しては、その建物を引き渡せということを言う権利を持っているほうが危険を負担するわけだね。今回の場合は、Cが建物が焼けて無くなっている場合であってもAに対して代金を支払わなければならないということになってしまいそうだ。」
 「でもよ、債権者主義の根拠を考えると、建物が滅失してしまった場合にまでCに負担を負わせるのは酷よね。だから、この場合は例外の債権者主義ではなく、原則である債務者主義で考えるべきよ。そうしたら、Cは焼失してしまった建物の代金を支払わなくてもいいわ。」
 「CはBに対しても、土地に関して真の権利者として『物権的登記請求権』が認められるね。さらに、建物についてはBは放火には無関係だから、不法行為責任などは追及することは出来ないね。」

 Aは、代理人Cを通してBから土地を購入したが、Aは自己名義にするのを嫌って、C名義に移転登記をし、そのまま数年を経た。
 その後、CはDから借金をし、その土地に抵当権を設定した。この借入金債務不履行のため、その土地は競売され、Eが競落した。Eは、所有権を取得できるか。
[司昭48-1]

 「まず、『登記に公信力はあるのか』だけど、登記には公信力は認められないわ。」
 「そうは言っても、不実の登記の作出に真の権利者が関与しているというケースでも、Dが無権利だってことになると取引の安全っていうものを害してしまうから妥当とはいえない。だから、真の権利者に外観作出の帰責性があるという場合はその外観を信頼した第三者であるDを保護する必要があるね。」
 「そうすると、真の権利者のAに帰責性があるかよね。Aとその代理人Cは通謀虚偽表示(94条2項)をしている場合はDを保護できるけど、今回の場合はそういう事実はないわね。そこで、『通謀虚偽表示がない場合に、94条2項を類推適用できるか』ってことが問題になるわね。」
 「そもそも、94条2項の趣旨っていうのは外観法理、つまり、@虚偽の外形、A本人の帰責性、B第三者の外観の信頼があった場合は第三者を保護しようってことでしょ。だから、94条2項の類推適用というのは可能だ。」
 「類推適用出来るとして、『94条2項の「第3者」保護要件は善意で足りるのか、善意・無過失まで必要か』ということが更に問題になるわ。」
 「善意だけで十分だよ(判例)。それから、『「第3者」の範囲』だけど転得者も外観を信用して取引関係に入ってきたのだから含まれるよね。」
 「最後に、『94条2項の類推適用の効果は、相対的か絶対的か』だけど、法律関係が複雑になることなどを考えれば効果は絶対的なものよね。」
 「というわけで、DEともに善意の場合、Dが悪意でもEが善意の場合はEは所有者として保護を受けることになるね。」

 『善意とは』