計算論的組織論 Computational Organization Theory(COT) †
- グループやチーム、市場をも含む「組織」を、計算論的な実体であるとして研究することである。組織は本質的に計算可能なものであると考え、これを検索エンジンが組み込まれた複雑かつ適応性のある情報処理システムとして捉える。
出典:キャサリーン M.カーリー、「社会システム・組織システムの計算論的分析」、組織科学 Vol.34 No.2:4-10(2000)
- 昨今,計算機は,理論,実験に次いで新たに出現した科学発展の第三の基盤と位置づけられ,理論科学,実験科学に並ぶ言葉として「計算論的科学(Computational Science)」が提唱されています。莫大な情報処理能力を備えた計算機を誰もが使える時代に生まれる新しい科学の進め方です。この考えに基づいて,計算論的神経科学や計算論的生命科学といった分野が生まれつつありますが,中でも,社会に対する施策立案に際しての計算論的アプローチは,複雑化の一途をたどり,もはや,問題解決の処方箋を描くことが大変に困難になっている今日の社会に対する大きな救いとなると期待されます。
出典:舩橋誠壽、「計算論的アプローチによる社会問題への取組み」、 国立環境研究所ニュース 26巻 4号 (2007年10月発行)
- 計算論的メカニズムデザインは,分散された個人情報を持つ自律的意思決定主体(エージェント)の社会的決定と,計算量や通信コストといった計算機科学の概念を同時に扱う新しい分野である.ミクロ経済学やゲーム理論の概念及び知識と,マルチエージェントシステムや計算機科学の概念及び知識が必要となる.さらに,計算論的メカニズムデザインは,理論からダイレクトに応用が可能な分野の一つである.
伊藤孝行、「計算論的メカニズムデザイン」、コンピュータソフトウェア, Vol. 25, No. 4., pp. 20-32、20081028
- さまざまな科学の領域における研究対象の複雑な現象の解明の手段として,実験,理論,そしてシミュレーションは自然科学の研究手法の三本柱である。近年の計算機の発達に伴い,実際の研究開発を行うあらゆる場においてシミュレーションの占める役割が増大してきている。通常シミュレーションは,当該分野の基礎理論式を計算機に実装するために数理モデルに変換した,いわゆるシミュレーションモデルの開発から始まる。もしシミュレーションモデルが動的な時間発展形式ならば,初期条件,境界条件等を与えれば,解は粛々と計算され更新されていく。つまり演繹的推論,言い換えれば順問題的(フォワード)思考である。・・・一方,統計科学においては,研究対象の理解のために,現象を支配している規則,関係式といった経験則を観測や計測データから推定していく。すなわち帰納的推論を行う。使われる手法としては,統計データ解析をはじめとして,機械学習の諸々手法やデータマイニング技法,そしてそれらの融合手法があげられる。これらはすべて逆問題的(バックワード)思考である。・・・。従前はこのアプローチの活躍の場は限られていたが,複雑な対象から大量に得られる多面的なデータが得られるようになった現在においては,帰納的推論の出番は10年前とは比較にならないほど多くなっている。
出典:樋口知之、「機能と帰納:情報化時代にめざす科学的推論の形」、http://www.rois.ac.jp/tric/pdf/18seika/18s_kinou_main.pdf
- 様相論理と時間論理は・・・認識論理やゲーム論、プログラムの検証などさまざまな分野と関連しています。・・・論理学とは、本来は人間の行う認識、判断、推論などの合理的な思考活動についての科学であると考えられます。哲学的な立場からの論理学研究はギリシャに始まり近代に至るまでヨーロッパの学問の一つの核として重要な役割を果たしてきました。19世紀のデデキントやカントールの集合論、フレーゲやラッセルの論理学研究は20世紀の数学基礎論、すなわち数学を支えている論理の研究として大きく成長します。その中から証明論、モデル理論、計算可能性の理論、公理的集合論などの研究が進展しました。・・・プログラム言語の設計、ソフトウェアの検証、人工知能の基礎づけなどの問題を理論的に解明する際に数理論理学は欠かすことができません。
出典:小野寛晰、http://www.jaist.ac.jp/is/labs/ono-ishihara-lab/ono-lab/index-j.html
- 計算論的組織理論[Carley 1994,Masuch 1992]や人工社会[Epstein 96,Hraber 96]の研究において、マルチエージェントを用いたシミュレーションモデルの研究が数多くなされている。これらの研究では、単純なエージェントアーキテクチャのもとで、興味深い組織構造や組織行動が創発することが繰り返し報告されている。しかしながら、従来の研究には以下のような3つの課題がある。(1)エージェントに実装される機能が単純すぎるために、複雑な実世界の社会的インタラクションの分析に使用するには無理がある。(2)その一方で、シミュレーション実験を実施する立場から、モデルのパラメタが非常に多く、それを調整することで、開発者が「思いどおり」の結果を出すことができてしまう。(3)モデルを実行して得られた結果と実社会の創発的な現象との間に関連性が乏しい。
出典:寺野隆雄、倉橋節也、南潮、「創発的計算と計算論的理論による情報ネットワーク社会モデル」、知能と複雑系 110-12(1998.1.22)
- 記号処理技術とエージェントの概念を組織科学が対象とするような悪構造の問題-社会システムの問題-に対して適用する時期がきていることを主張したい。このアプローチの優れている点は、数学的モデルと事例分析の中間に位置するところである。すなわち、これによれば記号による対象の記述と厳密な理論展開に加えて、プログラムの実行という形での理論のシミュレーションが可能である。
出典:寺野隆雄、「学習するエージェントとその組織的問題解決」、オペレーションズリサーチ Vol.42_09_598(1997年9月号)
- 認識論的規範を人工知能で(つまり計算機上で)試してみる という方法がある(計算論的科学哲学)。さらに、 コンピュータを使うと、人間にはできないような「合理的」 アルゴリズムを試してみることもできる(アンドロイド認識論)。
出典:戸田山和久、「知識の哲学」(2002)、産業図書
- 推論は人間の知性における最も基本的な特性である。しかし、人間はいわゆる数学的な論理と常に一致する推論を行うわけではない。人間の推論は関連性に基づく計算であること、またその計算において最も単純なパラメータ設定を行うと、論理と同じ行動が可能になる
出典:松井理直(2006)、計算論的関連性理論と命題論理、Theoretical and applied linguistics at Kobe Shoin 9 pp.57-71 20060321