6月30日(日曜日)旧暦5月20日、己巳、赤口 不特定物の特定後に、その物を他の物に変更することができるのでしょうか?(本多忠勝さん) 「種類債権の特定の制度っていうのは、債権者が他の物の給付をするのに必要な行為を完了したというようなときは、不特定物について履行すべき対象物を限定することによって債務者の負担を軽減するための制度だよね」 「それ以上の制度ではないと言えるわ。つまり、特定することで特定物債権に変わるわけじゃないのよね」 「とすればだよ、特段の事情がないかぎり、特定した物を債務者が他の物に変更したとしても問題はないね」 「特段の事情っていうのは、債権者が特定したその物の履行に特に正当な利益を持っているというような事情ね」 「そういう事情がないという場合は、債務者が同種同等の物に変更して弁済の提供をしたとしても、信義則上受領を拒むことはできないと言えるね」 [歴史豆知識] 『毛利家の先祖大江広元』 「毛利といえば安芸だけど、最初から安芸じゃないんだよね」 「どこが本拠かというと難しいわ。なにしろ、毛利家のご先祖様は鎌倉幕府開幕のときの重臣の大江広元(1148〜1225)だから」 「大江広元というと初代政所別当をつとめた人物だね。それに、『守護・地頭の制』を頼朝に進言するなど幕府の基礎を固めた人物としても有名だ」 「大江広元は元暦元(1184)年に頼朝に招かれて鎌倉幕府に入り、公文所別当に就任しているんだけど、もともとは京都の公家だから」 「源義家に兵法を伝授したと伝えられる大江匡房(まさふさ)の曾孫が広元だね」 「その広元が頼朝から相模国毛利庄に領地を貰って毛利を名乗ったのが始まり。承久の乱で活躍した広元の子である季光(すえみつ)が毛利庄を拝領したのね」 「それ以前にも、毛利庄に本拠を置く毛利氏がいけれども、結局は滅んでいるね」 「その大江流毛利氏だけど、その後、順調に安芸の毛利氏へと発展を遂げたわけではないわね。一時は族滅の危機にも陥っているわ」 「三浦泰村の乱だね。その後、安芸毛利と越後毛利に分かれ安芸毛利氏が毛利元就に繋がっていくわけだ」 [事件簿] [神奈川県警都筑署]横浜市都筑区勝田町の無職小泉正雄容疑者(56)を、リストラで辞めさせられた部品製造業「有限会社伊藤工業所」社長伊藤昭雄さん(53)の腹を包丁で刺したとして殺人未遂の疑いで緊急逮捕。 [宝塚署]午後11時15分ごろ、兵庫県宝塚市千種2丁目、マンション経営林丈治さん(54)方で粘着テープで巻かれて死亡している男性を住民通報により発見。「近くで『泥棒』と大声で叫ぶ声がした」とのことで強盗殺人事件として捜査開始。 [山口県警下関署]無職佐藤淳容疑者(30)を元内縁の妻の娘(5カ月)を「午前11時までに返す」と偽って連れ出した未成年者略取の疑いで逮捕。被害者は千葉県八街市内で無事保護。 [警視庁捜査4課、丸の内署]『三菱マテリアル事件』で総会屋「小峰グループ」(東京都新宿区高田馬場)代表、小泉幸雄容疑者(60、自称小峰伍郎)を商法違反(利益供与要求)の疑いで逮捕。同容疑者らは株主権を行使しない代わりに同社産業廃棄物処理事業への参入を要求したという。 6月29日(土曜日)旧暦5月19日、 戊辰、大安 賃借人は不動産賃借権に基づいて賃貸不動産の不法占拠者などに対して妨害排除請求できるんですか? (大阪在住、豊臣秀頼さん) [石橋君] 「賃借権は債権ですからね。妨害排除請求権っていうのは物権に認められた制度でしょ」 「そう考えてしまうと、賃借人の保護として迂遠になってしまうわね」 「つまり、まず、賃貸人に対して不法占拠者を退去させるように求めて、それでもだめな場合に、今度は債権者代位権を行使するってことになるからね」 「確かに、妨害排除請求は物権の排他性を根拠に認められるけど」 「不動産賃借権は登記すれば物権に対抗することができる(605条)から」 「対抗要件を備えた不動産賃借権は物権と同じように排他性があって物権化していると言えるわ」 [石橋君] 「つまり、対抗要件を備えた不動産賃借権は、物権と同様に妨害排除請求権を行使できるとそういう訳ですね」 やおら、忠別東署の常盤警部補が入ってくる。 「最近はどうですか」 [常盤警部補] 「新潟の六日町署管内の老人ホームで75歳の飯酒盃(いさはい)マツさんが殺害された『新潟曙海ケアハウス殺人事件』で隣室の角谷又雄容疑者(77)を逮捕したって情報が入ってきている。それから、『大阪加藤善一郎さん失踪事件』関係では、大阪府警=石川県警合同捜査本部が、公正証書不実記載容疑で指名手配している尹麗娜容疑者(46)が加藤さんの預金を引き出して中国に送金していたと発表しているんだ。ここにも、手配書を置いていくから協力をお願いね」 外を見ると、空は既に暗んでいて雨の音が静かに聞こえるようになっていた。 [今日の問題] 6月28日(金曜日)旧暦5月18日、丁卯、六白金星、仏滅 [石橋君] 「吉沢儀一という人が自分の買ったばかりの車で鼻歌を歌いながら音楽の音量を最大にして、しかも携帯電話を右手に持って女友達と話をしながらドライブを楽しんでいたんだそうです。そんな状態ですから、当然、横断歩道を青信号で杖を持った手を挙げて渡っていた、道を散歩している途中の近所の好々爺で有名な加賀爪惟盛さんなんかには気がつきもしなかったんです。気付いた時には既に遅く、加えて物凄いスピードを出していたので、加賀爪惟盛さんをはねて15メートルも飛ばしてしまったわけです。加賀爪惟盛さんは瀕死の重傷を負ってはいたのですが、お医者さんのいうには直ぐに連れてきてくれれば十分助かった可能性があったようなんです。ですがですよ、吉沢という男は何を思ったのか、加賀爪惟盛さんを自分の車のトランクに詰め込んで、どこかに捨てようとしたらしいんです。後部座席は汚れるからトランクだというんです。なんと言うことか。全く。で、そうこうしているうちに加賀爪惟盛さんは蒸し暑いトランクの中で息絶えてしまったんだそうです。その上ですよ、吉沢と電話をしていた女友達が物凄く変な音に気付いて通報して逮捕となったのですけど、俺が殺したわけじゃぁないだろうと。俺ははねただけだと言い張っているんですよ」 「重傷を負った加賀爪惟盛さんを自分の車に乗せ結果、加賀爪惟盛さんを死亡させているので、その行為は殺人罪(199条)とならないのかと」 「問題は、吉沢という若者は死の結果が発生するというような積極的行為を行っていないことだね。というわけで、吉沢という若者の不作為を殺人の実行行為と評価できるかを検討する必要があるわけだ」 「殺人罪は作為として規定されているからね。でも、実行行為は犯罪の結果発生の現実的危険を有する行為であると捉えるなら、結果発生の危険を不作為によって実現することはできるわ。ということは、不作為にも実行行為性を認めることはできる」 「不作為でも殺人といえる行為を犯すことができるというわけだね。でも、不作為犯とは期待された作為をしないことが犯罪にあたる場合であるわけでしょ、つまり作為義務の内容が明示されていないわけだ。そうすると、無闇矢鱈と認めるわけにはいかないね、不真正不作為犯の成立を限定する必要があるよ」 「そうね、具体的には不作為に、作為によって当該構成要件を発生することとの同価値性が認められることが必要であると解する。不作為は具体的な危険が現実化さかような構成要件的同価値性は、@ 結果発生の現実的危険が発生していることA 結果防止の可能性・容易性、B 行為者に作為義務があることから判断するということになるね」 「その作為義務の有無は、法令・契約・事務管理・先行行為等の存在などの総合的に判断する」 [石橋君] 「そうすると、吉沢っていう鼻歌を唄いながら運転していた人はやっぱり..」 「加賀爪老人は車で跳ね飛ばされた時点で既に瀕死の重傷を負っているわけで、加賀爪老人 の生命・身体という法益に高度の危険が生じているといえるわ」 「加えて、吉沢という人は車で加賀爪老人を跳ね飛ばしているだけじゃなくて車のトランクに詰め込んでいる。つまり、救助をなしうる者が自分しかいない状況を作り出しているということになる。こういう事情を考えると、吉沢という人には作為義務が認められるね」 「それに、車を用いれば近くのテレビでも取り上げられた救命率の高いことで有名な緊急救命センターに加賀爪さんを連れて行くというような適当な処置をとることができたのよ。だから、結果防止の可能性も認められるわ」 「つまり、吉沢君は加賀爪老人を跳ね飛ばした後の不作為には作為との構成要件的同価値性が認められるわけだ。吉沢君の行為には殺人罪の実行行為性を満たしているし、そのような吉沢君の人とは到底思えないような行為と好々爺で知られていた加賀爪老人の死の結果との因果性も認められる。ということだから、吉沢君は殺人罪の罪責を負うね」 6月27日(木曜日)旧暦5月17日、丙寅、先負、七赤金星 今日も近文さんたちがお見えになっています。 [石橋君] 「外科医の兼松さんが、日頃自分の言うことを聞かない看護婦の良子さんを憎たらしく思っていたという事実があったとしますよ。そういう状況の中で、中々融資をしてくれなくて、ようやく融資をしてくれたと思ったらいろいろと文句をいってきていた小金持ちの植草寛さんが腸捻転で入院してきたことをいいことに、良子さんに危険な薬品の投薬を処方して植草さんの殺害を企てたという場合に、外科医の兼松さんは直接には手を下していないですよね、そうしたら兼松医師は殺人罪(199条)には問われないんですか?あぁ、良子さんは非常に良く気が付く人で、それから仕事も良く出来る人だったんですよ。看護婦の鏡のような、まぁ現代のナイチンゲールのような。そういう人だったんですんでのところで処方の間違いに気付いて事無きを得てます」 「危険な薬品って、その薬品を投薬したら死ぬことが確実なほどの劇薬よね」 「良子さんは事情を知らなかったわけだよね。そうすると、兼松医師が情を知らない看護婦の良子さんを利用して殺人罪(199条)の結果を発生させようしているということは、そういう兼松医師の行為に果たして実行行為性を肯定できるかということが問題になるね」 「えーと、実行行為というのは当該構成要件が予定する結果発生の危険を有する行為と定義されるわ」 「普通は実行行為というのは行為者自らの手で行われるけど、他人などの助けを借りている場合が少なくないね。だから、自分の手で直接に手を汚さない場合でも実行行為を考えることが出来るわけだ。とすると、他人を自己の意のままに使い、その動作や行為を自己の犯罪に利用するといった場合には、自らその実行行為をしたと全く同じに考えることができるね」 「そのような利用者は間接正犯として処罰できると考えられるわね」 「兼松医師は情を知らない看護婦の良子さんを利用して植草さんを殺そうとしている、つまり殺人の結果を発生させようとしているね。看護婦の良子さんを利用しようとしているところに、兼松医師の支配可能性が認められるから、兼松医師の行為は殺人罪の実行行為と評価できる」 「でも、結局は植草さんは殺されなかったわけで、つまり殺人の結果が発生していないわけね。だから、兼松医師に殺人未遂罪(199条・203条)の成立するのかどうかを考えなくてはいけないことになる」 「実行の着手を考えるわけだ」 「実行の着手っていうのは、具体的な犯罪結果発生の危険性が現実化した時点と考えられる」 「そして、そうした具体的な危険性というのは被利用者による行為によって現実化する場合が多いね」 「だけど、そう簡単には一概には言えないわよ。つまり、危険性の発生は、個々の具体的な事案によって変わるものでしょ。とすると、間接正犯でも、実行の着手時期について利用者・被利用者いずれを基準とすると固定化することは妥当じゃないわね。ケース・バイ・ケースによって、実行の着手を認めるに必要な危険が発生しているかどうかを個別具体的に判断すべきだわ」 「とするとだよ、この場合は殺人の結果発生の現実的危険は未だ発生していないと考えることができるね。ということは、兼松医師には殺人未遂罪は成立しないことになるね。でも、兼松医師の行った行為は予備の構成要件に該当するから、兼松医師には殺人予備罪(201条)が成立することになる」 [出来事] ■大阪地裁で『大阪教育大付属池田小児童殺害事件』の宅間守被告(38)の被告人質問始まる。 ■1944年6月27日 23日に洞爺湖畔にできた新山が「昭和新山」と命名。 ■1994年6月27日 『松本サリン事件』 ■2000年6月27日 在日韓国朝鮮人が地方参政権の確認などを求めた訴訟が最高裁で棄却。 ■1997年6月27日 『長野市地滑り災害事件(1985年7月)』で、長野地裁が長野県の責任を認め総額5億474万円の支払いを命じる。 |